マーシャル・シーツは、アメリカバージニア州に住むマスタークーパー。クーパー (cooper)とは洋樽を作る樽職人のことで、その中でもマーシャルは、伝統的な道具のみを使って色々な種類の桶や樽を作成・修理することができる「マスタークーパー」である。現在彼のようなマスタークーパーはアメリカに6人ほどしか残っていない。

イギリスロンドンのテムズ川沿いで見つかった17世紀のタンカードをモデルにしている。
「アメリカの手仕事展」2019年5月 出店予定
初めてマーシャルの作ったバケツやピギン(手桶)を見たときにはその重厚で頑丈な作りに驚いた。軽くて薄い木を使った繊細な日本の桶と全く違う。狩猟民族と農耕民族の桶や樽の用途や扱いが違うからだろうか。たくましいボディーにドローナイフで削ったあとが残る木の表面や、鉄を叩いて作ったタガに残る傷も美しい。

機械を使えば時間も労力も減らせる作業を手で行うマーシャルは、「現代の資本主義社会で、全ての工程を手でやる製品を作って販売するのを生業にするのは、経済的自殺になり得る」と冗談を言って笑う。それでもうるさい機械を操作して木塵にまみれて作業をするのと、道具を使う仕事をするのでは、後者のほうが何倍も生活の質が高いのではないだろうか。日本の鎌倉・室町時代の木造建築に使われた規矩術などが現在以上に優れていたとどこかで読んだが、いにしえから伝えられた技能の番人は今こそ未来のために必要だと感じる。
マーシャル・シーツ略歴
コロニアルウィリアムスバーグのマスタークーパー、ジェーム・スペッテンジェル氏に6年間師事後、独立してクーパリッジの会社 Jamestown Cooperage を起業する。現在は桶や樽の制作や販売、また多数博物館や学校でのデモンストレーションやトレーニング、そしてコンサルティングの仕事をしている。熱心な研究家でもあるマーシャルは、現在ハグリーの火薬工場、ニューイングランドの捕鯨産業、そして18世紀後半から19世紀にかけてのシェーカー教徒による桶や樽などをリサーチ中。